平成22年度
PC 技術協会賞選考経過報告


 PC技術協会賞は,元本協会会長京都大学名誉教授の坂 静雄博士の基金に
よって創設されたものである。平成22年度は,第38回目の表彰である。今回の
受賞は,論文部門2件,作品部門11件,技術開発部門2件,施工技術部門3件の
計18件である。
 今回受賞したものは,いずれもきわめて優れたものであり,プレストレストコンク
リート(PC)技術の進歩と発展に著しい貢献をされ,PC 技術を用いた構造物の将来
の方向を示すとともに,社会基盤の形成に大きく寄与するものである。
 論文部門は,本協会機関誌,プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジ
ウム論文集,本協会各種刊行物に発表された研究論文,工事記録等について,応
募および選考委員より推薦されたなかから選定した。また,作品部門,技術開発部
門および施工技術部門は,いずれも応募されたなかから選定した。
 以下に各授賞の選考理由を述べる。

T 論文部門 
・有開口PC 梁の開口部せん断耐力に関する研究
(協会誌第52 巻4 号)
高 津 比呂人 殿
木 村  秀 樹 殿
丹 野  吉 雄 殿
渡 邉  史 夫 殿
 本論文は,オフィスビルなどの大スパンを構築するPC梁に設けられる開口部周囲を斜め筋で補強した,有開口PC梁の加力実験を行い,斜め筋による補強がRCのみならず,PC梁に対しても有効であることを確認したものである。その実用性が高く評価され,本論文をPC技術協会賞論文部門に選定した。

・PC グラウトの塩分濃度が鋼材腐食に及ぼす影響
(協会誌第52 巻1 号)
二井谷  教 治 殿
徳  光     卓 殿
山  田  一 夫 殿
野  島  昭 二 殿
宮  川  豊 章 殿
 本論文は,PCグラウトに含まれる塩化物イオン量の新しい規制値を策定するため,PCグラウトの含有塩化物イオン量とPC鋼材の腐食に関する実験を5年間にわたって行った結果をまとめたものであり,鋼材腐食の発生は,含有塩化物イオン量と単位セメント量との比に依存し,腐食を防止する塩化物イオン濃度は,単位セメント量×0.08質量%以下で十分であることを明らかにしたものである。基礎的で実証的な成果が高く評価され,本論文をPC技術協会賞論文部門に選定した。


U 作品部門 
 作品部門は,PC技術の進歩と発展に大きく寄与するとともに,美観・景観,構造・材料・施工,社会への貢献,環境への配慮などの諸観点より選定した。

・余部橋りょう
西日本旅客鉄道梶@殿
 余部橋りょうは,全長約310m の5径間連続PCエクストラドーズド箱桁橋である。旧橋のイメージを継承するデザインコンセプトにより,等桁高,低桁高として建設されている。海岸線近くの厳しい塩害環境に対応した耐久性照査を実施し,設計耐用期間100年を確保しているとともに,防風壁を設置し強風による列車の運休回数を低減している。既設線路との接続工事においては,重量3820tの桁を,空中で横移動・回転架設する工法により,運休期間の短縮を実現した。このように本橋梁は,景観,耐久性,施工方法など,今後の技術の進歩に対して大きく貢献していることから,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・不動大橋 旧称:八ツ場ダム湖面2 号橋 
国土交通省関東地方整備局 八ツ場ダム工事事務所 殿
 不動大橋は,群馬県の吾妻川(あがつまがわ)中流に計画中の八ツ場ダム建設事業の一環として,整備されている付替道路にある橋梁である。橋長は590mで,5径間連続鋼・コンクリート複合トラス・エクストラドーズド橋で,PC複合トラス橋とエクストラドーズド橋の技術を融合した,世界初の構造形式となっている。また,国内のPC複合トラス橋の施工実績において初めて,最小桁高6m で,最長スパン155m を実現したことなど,今後のPC技術の発展に寄与していることから,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・東京国際空港D 滑走路の桟橋部
国土交通省 関東地方整備局 東京空港整備事務所 殿
 東京国際空港D滑走路では,多摩川の通水性を確保するために,桟橋工法と埋立工法によるハイブリット構造が採用された。桟橋部のうち,滑走路を含む中央部は,鋼製ジャケットの上部桁上に,プレキャストPC床版を敷設した合成構造となっており,間詰部にはコンクリートを打設して,伸縮目地のない連続した床版として構築されている。さらに,桟橋外周部には,UFCすなわち超高強度繊維補強コンクリート製のプレキャストPC床版が敷設されている。このように,本構造の設計・施工にあたりさまざまな創意工夫がなされ,今後のPC技術の発展に寄与していることから,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・夢翔大橋
奈 良 県 殿
 夢翔大橋は,急峻地形に架設された3径間連続PC エクストラドーズド・ラーメン橋である。本橋では,わが国初の試みとなるエクストラドーズド橋の主桁・主塔への,設計基準強度60N/mm2 の高強度コンクリートの適用をはじめ,徹底した高強度化と軽量化が図られた。また,平面曲線に応じて建築限界を確保するため,意匠性と力学合理性を兼ね備えたY 字形主塔を採用し,厳しい架橋条件を克服しつつ,構造性能と意匠を両立させた点が評価され,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・コロラドリバー橋
アメリカ連邦高速道路局 殿
 フーバーダムの堤体上を通る自動車道路のバイパスとして建設されたコロラドリバー橋は,スレンダーなアーチリブが並列するツインアーチ構造を採用し,全体重量の低減や地形改変の最小化を図っている。また,耐風対策として世界で初めてコンクリートアーチを鋼製ストラットにより一体化する構造が採用されている。砂漠性気候という厳しい環境条件のなか,北米最長のコンクリートアーチ橋をピロン工法により施工した点など,今後の橋梁技術の発展に大きく寄与するものと考えられ,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・みなとみらいセンタービル
オーディーケー特定目的会社 殿
 本建物は,横浜市みなとみらい地区に建つ地上21階の超高層オフィスビルである。制振システムと免震構造を組み合せることで高い耐震性能を確保している。また,プレキャストPC梁を各階で全面的に採用することにより,約23mのロングスパンと高い居住性を兼ね備えた無柱空間を実現している。プレキャスト工法により高品質で施工性・経済性の高い建築施工を可能とし,プレストレストコンクリート造による超高層ビルの新しい展開を示した点が高く評価され,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・ワルミ大橋
沖縄県 北部土木事務所 殿
 ワルミ大橋は,ワルミ海峡を横断し沖縄本島の本部(もとぶ)半島と屋我地島(やがじじま)を繋ぐアーチ橋である。風光明媚な景観との調和を考慮し,上路式RC固定アーチ橋が選定された。ワルミ大橋の主ケーブルには,沖縄特有の塩害による耐久性の低下を防ぐため,補剛桁の分割施工に際して,新しいPCケーブル接続システムが開発され,適用されている。合成アーチ巻立て工法で施工されたアーチ橋としては,初めてアーチスパンで200m を超えたものであり,同工法のさらなる可能性を示した点が評価され,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・谷津川橋(上り線,下り線)
中日本高速道路梶@東京支社 殿
 谷津川橋(やとがわばし)は,新東名高速道路の御殿場ジャンクションと長泉沼津(ながいずみ・ぬまづ)インターチェンジの間に建設された波形鋼板ウェブを有するPC 橋で,上り線が橋長383.5m,最大支間135.0m で,5径間連続箱桁橋,下り線が橋長406.0m,最大支間131.5m で,これも5 径間連続箱桁橋である。また,中央支間長135.0m は連続桁形式の波形鋼板ウェブPC橋としては,世界最長である。本橋は,波形鋼板ウェブとストラット付き床版を有する,鋼・コンクリート複合PC橋であり,新東名高速道路の建設で新しく開発された技術を取り入れ,経済性,耐久性,施工性,景観性を向上させた点が評価され,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・昭和学院伊藤記念ホール
学校法人 昭和学院 殿
 本建築物は,560席のホールを中心に,展示室と会議室からなる施設で,幼稚園から短大までの学内関係者のみならず,地域にも開放されるものである。敷地内の法的な高さ制限,天井高さの確保,ならびに音響効果に対する解決方法として,またそれと同時に子供たちに機能的な美しさや本物の素材感をアピールすることを目的として,ホール屋根は折板形(おれいたがた)のプレキャストPC構造とし,そのまま天井となっている。このように,本建物はPC技術をうまく利用して,ニーズに見合った空間を作り出し,これからのPC技術の発展に大きく寄与するものと考えられ,PC技術協会賞作品部門に選定した。

・九州歴史資料館
福 岡 県 殿
 平成22年11月21日に移転,開館した九州歴史資料館は,元来,木造で構築していた日本建築の骨組を鉄筋コンクリートで表現した建物である。建物の外観は,寄棟(よせむね)の屋根形状と深い軒庇(のきびさし)の陰影により,伝統的な日本建築のたたずまいとして計画された。PC合成床版を用いた庇(ひさし)では,平安時代以前の単純明快な軒裏(のきうら)の構造が表現されており,合理的で,また耐久性が高く,美しい庇(ひさし)の構造を実現している点が評価され,PC技術協会賞作品部門に選定
した。

・立川市庁舎
立 川 市 殿
 立川市庁舎は,ワンフロア約6000m2 の,事務室および会議室が3層となる大規模低層平面の構成となっている。免震構造とプレキャストPC 圧着接合を併用し,またPC と鋼管柱の使用により,大規模な無柱空間を実現している。8.4×16.8m のユニットの中には,スパン16.8m のチャンネル型PC合成床板を使用し,小梁を無くした構造となっている。本建物は,免震構造とプレキャストPC圧着工法と鋼管柱の併用という,今までにあまり例をみない構造形式により,大空間を確保している点が特徴であり,この点が評価され,PC技術協会賞作品部門に選定した。


V 技術開発部門    
・高耐荷UFC 床版構造と量産化システムの開発による空港整備
国土交通省関東地方整備局 東京空港整備事務所
鹿島・あおみ・大林・五洋・清水・新日鉄エンジ・
JFEエンジ・大成・東亜・東洋・西松・前田・
殿
三菱重工・みらい・若築異工種建設工事共同企業体 殿
 羽田空港D 滑走路の桟橋部192000 m2 には,UFC すなわち超高強度繊維補強コンクリートを用いた床版が,約7000枚,敷設されている。厳しい要求水準に対し誠実に取り組み,解析や実験による試行錯誤を繰り返しながら,床版構造の選定,耐荷性能の検証,大量生産システムの構築,ならびに厳格な品質管理が実施された。検討の結果,要求水準をすべて満足する構造と生産方法が開発され,実生産においてその品質レベルの高さを示し,最終的に空港整備に貢献した点が高く評価され,PC技術協会賞技術開発部門に選定した。

・弾性高じん性セメント系複合体を用いた床版連結構造の開発と
 適用
西日本高速道路梶@関西支社 殿
三井住友建設梶E潟sーエス三菱共同企業体 殿
 第二京阪道路の京田辺(きょうたなべ)パーキングエリアは,供用中の第二京阪道路の上空に,PC桁を並べて建設した人工地盤である。橋脚設置位置の制約から,スパン長,桁高,桁形状が異なるPC桁から構成されている。このため,本工事では,「床版連結構造」をあらたに開発し,従来技術では連結化が困難な,異なる形状のPC桁同士の連結を実現した。さらに,「低弾性高じん性セメント系複合体」を開発し,作用する断面力を低減することで,すべての箇所における連結を可能とした点が評価され,PC技術協会賞技術開発部門に選定した。


W 施工技術部門   
・羽田空港D 滑走路桟橋部コンクリート床版の大規模急速施工
国土交通省関東地方整備局 東京空港整備事務所
鹿島・あおみ・大林・五洋・清水・新日鉄エンジ・
JFEエンジ・大成・東亜・東洋・西松・前田・
殿
三菱重工・みらい・若築異工種建設工事共同企業体 殿
 羽田空港D滑走路桟橋部のコンクリート床版は,面積約31万m2 という世界最大規模の連続コンクリート床版で,10697枚におよぶプレキャスト床版が敷設された。コンクリート床版の製作にあたっては,床版製作ヤードを整備し,一日あたり最大24枚のペースで,品質管理と保管・出荷管理が行われた。そして,現地では,耐久性確保のために,各種の工夫,品質管理が行われ,全工期41ヵ月のうちの実質25ヵ月という短い工期で,大規模急速施工が実現した点が評価され,PC技術協会賞施工技術部門に選定した。

・第二京阪道路 交野高架橋
西日本高速道路 関西支社 
三井住友建設梶E潟sーエス三菱・
殿
オリエンタル白石葛、同企業体  殿
 第二京阪道路 交野(かたの)高架橋は,大阪府交野市に位置する総延長1508m のPC連続箱桁橋である。本橋では,工場製作のプレキャストセグメントをスパン・バイ・スパン工法により架設されている。なお,遺跡調査の関係から,下部工引渡時期が遅れ,非常に厳しい工程的制約条件を受けたが,横取り装置を備えた架設ガーダーの採用,支保工によるセグメント架設等の工夫により,約4カ月間の工程短縮を実現し,平成21年度内の供用開始に貢献した点が評価され,PC技術協会賞施工技術部門に選定した。

・コンクリートアーチ橋リニューアル工事(君津新橋補修工事)
君津市役所 殿
三井住友建設梶@殿
 君津新橋は,支間長66m の下路式ローゼアーチ橋で,国内初の形式として昭和48年に建設された。平成20年10月,アーチ部材と下弦材を繋ぐ吊材のPC鋼棒に破断や腐食が確認されたため,車両通行止めとし,安全性を確保しながら補修工事が実施された。本補修工事では,仮吊材の支持工法の開発,吊材PC鋼棒の緊張力解放装置の開発,さらには施工時動態観測システムの開発など,各種の最新技術が開発された。最終的に,工費や工期の削減,安全性の向上を目指した補修工事が完成し,この点が評価され,PC技術協会賞施工技術部門に選定した。